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東京地方裁判所 平成11年(ワ)27424号・平10年(ワ)28954号 判決

主文

一  原告が別紙供託目録記載一ないし四記載の供託金の合計金七六七一万一〇〇円の還付請求権を有することを確認する。

二  被告の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、すべて被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  本訴

主文第一項と同旨

二  反訴

被告が別紙供託目録記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。

第二事案の概要

被告は訴外東急建設株式会社(以下、「訴外会社」という。)に対して請負代金債権を有していたところ、訴外会社がこれについて別紙供託目録記載のとおり債権者不確知等を理由に供託をし、原告は、被告から右債権の譲渡を受けたとして優先的な還付請求権を主張し、本訴においてその確認を求めるのに対し、被告は、原告への債権譲渡の存在を争うとともに、譲渡禁止特約の存在による債権譲渡の無効等を主張して、反訴において供託金の還付請求権の確認を求めている。

なお、原告は、被告が譲渡禁止特約の存在を主張することは、禁反言の法理に反し、信義則違反、権利の濫用に当たると主張している。

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲一、二の1、2、三ないし七、八の1ないし12、一〇ないし一六、乙一ないし五、七、九ないし一二、証人勝山修爾及び同藤田稔の各証言)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  原告は、被告との間で平成六年四月二八日付けで信用金庫取引約定書(甲四)を締結して継続的な取引を行い、平成一〇年七月上旬当時、同年四月一日付金銭消費貸借契約(甲五)に基づく金二億円の残元本一億四〇〇〇万円及び同年五月二七日付手形貸付(甲六)の方法による金三億円の合計金四億二〇〇〇万円の貸金債権を有していた。原告は、被告が右取引の当初には業績が好調であったことから、被告のために五億円の限度で不動産担保等を要しない与信枠を設定しており、右二口の債権についても従前の経緯に基づき不動産等の担保を取っていなかった。しかし、被告は平成九年と平成一〇年の二年連続で減益となり、業界全体の状況も芳しくないことから、原告においては、同年春ころから被告に対する与信を見直し担保の確保を図る必要性があると考えるようになっていた。

2  被告は、平成一〇年七月ころまでには新たな借入れをしなければ毎月の手形決済もできなくなり、毎月、取引関係のある二〇余りの金融機関に対して順次新たな借入れを申し込む状況に陥っており、同月中旬ころ、その一環として同年八月五日決済の資金手当をするため、当時被告の管理本部取締役として金融機関との交渉窓口役を務めていた藤田部長は、経理部の北村課長とともに、取引のあった原告常盤台支店の勝山支店長と穂積課長に対し、一億円の融資方を申し込んだ。

3  これに対し、当時自己資本比率を上げるため、貸金の圧縮に動いていた原告の両名は、新規貸付が難しくなってきていることを説明し、被告に対し、既貸付の手形貸付分三億円について約定弁済(早期割賦弁済)を求めた。しかし、被告としては、当時同年八月五日の資金手当として新規に一億円の融資を受けることが最優先課題であったため、被告の藤田部長は勝山支店長に三億円の約定弁済については留保を頼み、新規の融資について強く要請した。しかし、勝山支店長は、この話は被告会社の業績から即答できる話ではないので、原告内で検討するということで持ち帰った。

原告は、勝山支店長からの報告を受けて検討した結果、無担保による金一億円の新規融資は不可、この機会に融資残高全部に担保を取るように交渉し、全部が駄目でも一億円以上の担保を得て保全が強化できれば追加融資することも考えられるとして、勝山支店長に対し藤田部長との交渉を指示した。

4  勝山支店長は、これを受けて藤田部長に担保の提供を要求したが、当時被告所有の不動産には既に価格以上の担保が設定済みで全く余裕がなく、有価証券も簿価割れで担保価値がないため、担保に供し得るものは被告がゼネコン各社に対して有していた工事代金債権以外にないことが判明したが、藤田部長は勝山支店長に対し、債権譲渡が大手ゼネコンに知れると被告会社の信用の問題もあるので、予めゼネコンの承諾を得る承諾方式ではなく被告作成の債権譲渡通知書を原告に差し入れる通知方式とし、しかも通知は債務不履行があるまで留保する扱いにして欲しいと申入れをした。勝山支店長は、このことを原告の本部に報告するとともに、被告提出の工事受注明細(甲八の九、一〇)を資料として原告内部で稟議にかけ、原告は、平成一〇年八月五日、金額五億二〇〇〇万円相当の請負代金債権につき通知方式(留保扱い)で債権譲渡を受けることを条件に新規に一億円の融資をする旨の決裁をし、勝山支店長にその旨指示した(甲八の三)。

5  原告の勝山支店長と穂積課長は、平成一〇年八月五日午後、被告の管理本部を訪れ、藤田部長と北村課長に対し、弁済期を同月二一日とする金一億円の融資について原告本部の決裁が下りたことを伝え、右融資を実行するため、債権譲渡契約書(乙七)、債権譲渡通知書(甲二の1、乙九、なお、被告は原告の要請により、もう一通の債権譲渡通知書(乙八)を差し入れているが、その時期については当事者間に争いがあり、右通知書は訴外会社以外の第三債務者に対して送付されたものであって本件とは直接の関係がないので、敢えて触れないこととする。)及び念書(乙一〇)に被告代表者の記名押印を求めたところ、被告側はそれに応じて被告代表者の記名押印をした上、これらを原告側に交付し、原告は、同日金一億円の貸付を実行した。

右債権譲渡契約書の冒頭には「当社は貴金庫との間の 年 月 日付信用金庫取引約定に基づき、貴金庫に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため」との記載があり、原、被告間で先に締結されていた前記信用金庫取引約定書(甲四)第四条一項には「貴金庫に現在差し入れている担保および将来差し入れる担保は、すべて、その担保する債務のほか、現在および将来負担するいっさいの債務を共通に担保するものとします。」との記載があった。

6  原告は、平成一〇年八月二一日、前項の金一億円の返済を受けた後、新たに担保を徴求することなく金五〇〇〇万円を貸し付け、被告は、これを同年九月二一日に返済したが、その後も前記の債権譲渡関係の書類の返還を求めていない。

7  被告は、平成一〇年一〇月五日、支払を停止し、その営業所に法的整理を準備中である旨の掲示をし(甲一一)、事実上倒産した。

そこで、原告は、被告が訴外会社に対して有する請負代金債権の譲渡を受けることによって自己の貸金の回収を図ろうと考え、先に交付を受けた債権譲渡通知書に所要の事項を記入した上、これを配達証明郵便によって訴外会社に送付し、右郵便は同月六日訴外会社に到達した。

また、原告は、自己の債権を保全するため、右債権について仮差押えをした。

8  被告は訴外会社から陽光子友乃会主座世界本山建設工事屋根工事及びその追加工事等を請け負っていたが、それ以前に両者間で締結された基本契約に基づく工事下請契約約款第八条一項には、相手方の書面による承諾を得た場合を除いては、個別契約により生ずる権利又は義務を第三者に譲渡し又は承継させない旨のいわゆる譲渡禁止特約(以下「本件譲渡禁止特約」という)が明記されていた(乙五)。

訴外会社は、前記のとおり、被告が平成一〇年一〇月五日に支払を停止し事実上倒産したことから、同日右請負契約を解除し、同月八日、それまでの出来高に相当する被告の代金債権と訴外会社が被告に代わって支払った労賃相当分の立替払請求権とを対等額で相殺し、右請負工事残代金の額は金七六七一万〇一〇〇円となった。

訴外会社は、原告からの債権譲渡通知及び仮差押えを受けたのち、右残代金につき、別紙供託目録記載のとおり供託をしたが、その供託原因の要旨は、確定日付のある債権譲渡通知書及び仮差押命令が送達されたが、右代金債権には債権譲渡禁止特約が付されており、これについて、原告の善意、悪意が不明であるから、真実の債権者を確知できず、また譲渡が無効であるとすれば、上記債権が差し押さえられることになるので、債権金額を供託する、というものであった(甲一、三、一三、一四)。

9  被告は、平成一〇年一二月一〇日和議手続開始の申立てをし、平成一一年五月一二日に和議開始決定を得、同年一二月一日に和議認可決定がされ、同月二三日に右決定が確定した。右認可決定における和議の条件は、第一に、和議債権者に対し確定後一か月以内に和議債権元金の一二パーセントを支払い、第二に、和議債権者は被告に対し第一の支払が履行されたときはその余の和議債権元金部分残額、利息及び遅延損害金の支払を免除し、第三に、第一の支払については東京都新宿区西新宿二丁目一番一号三和シャッター工業株式会社が保証するというものであったが(甲一五、一六)、本件口頭弁論終結時において、被告は右和議条件の第一の履行をほぼ終了し、本件供託金の帰趨は和議条件の履行ひいては和議債権者の利益には直接関係がない状況となっている。

二  被担保債権の範囲について

被告は、債権譲渡の被担保債権について、平成一〇年八月五日の新規の金一億円の借入金のみを担保するものであり、担保の実行は右一億円が返済されないことが停止条件であったが、右一億円は同月二一日に全額弁済となっているのであるから、既に被担保債権は消滅しており、原告は本件債権譲渡の譲受人の地位を有しないものである旨主張し、証人藤田稔の供述及び同証人作成の証拠(乙一五、一六)中には、これに添う部分もあるし、同証人作成の「王子信用金庫の件」と題する書面(乙一四)には、同証人が、右融資の前日、原告の勝山支店長に対し、新規融資分の一括返済と同時に売掛債権譲渡担保は解除となるよう再考を要請したとの記載がある。

しかし、前記認定に係る原、被告間の信用金庫取引約定書の内容及び当時の被告の資金繰りの状況からすると、原告が新規融資のみならず被告に対する融資全体に対する担保を要求するのは当然のことであり、右乙第一四号証において「再考」を要請したとの記載があることからしても、原告が右のような要求をしていたことが認められるばかりか、同号証中には、勝山支店長が、右要請に対して、原告の「本部の力が大変強いのでご理解」願いたいと答えたとの記載もあり、このことからすると、被告においても、右再考の要請を原告本部が受け入れない可能性が強いことも十分認識して翌日の融資実行日を迎えたと認めることができる。そして、前記認定のとおり、融資実行の際に作成された債権譲渡契約書にも、被告に対する融資全体についての担保とする旨明示されていたこと、その日が決済資金を必要とする当日であったこと及び当時の被告の資金繰りの状況などに照らすと、被告としても、自己の要請が受け入れられなかったことは十分認識しながら、やむを得ず原告の意向を受け入れ、既存のものを含む融資全体の担保とする趣旨で債権譲渡に応じたものと認めることができ、これに反する前記各証拠は採用できない。

なお、被告は、藤田部長が、融資当日に合意内容を確認するため、要旨「今回の債権譲渡契約書はこの度の融資のみに限り期日に一括返済と同時に解除となり、そのため返済日までに債権譲渡は留保する、従前の三億円分については別途打ち合わせの上協議する」等の確認事項を記載した文書を原告にファックスで送信した(乙六)としている。しかしながら、原告は右のようなファックスを受領した事実はないとしており、右送信の事実を裏付けるに足りる適確な証拠もないから、被告の右主張は前提を欠くといわざるを得ないし、仮に右送信の事実があったとしても、既に当事者間で合意が成立したことは前記認定のとおりであるから、その後に合意内容に反する文書を送付したとしても、それによって合意の内容が左右されるものではなく、被告の右主張は前記認定を左右するものではない。

また、被告は、原告が被告の支払停止直後に被告所有の不動産のほぼ全部、売掛金債権、敷金返還請求権、特許権及び実用新案権及び株式等について仮差押えをし、その債権の保全を図ったことを指摘しているが、本件債権譲渡については、第三債務者による相殺の主張等により(前記認定のとおり、現に債権の一部について相殺がされた。)、債権の行使が円滑に行えるか否か不確定な状況にあったというほかないから、このことに備えて右のような仮差押えの措置を講ずることは金融機関としては当然の行為であって、このことを捉えて原告自身も本件債権譲渡が被告に対する債権全額を担保するものとは考えていなかったと推認することはできない。

三  譲渡禁止特約との関係

被告は、訴外会社に対する請負代金債権には債権譲渡禁止特約が付されており、原告はこれについて悪意又は重過失があったから、本件債権譲渡は右特約に違反して無効であると主張する。

しかし、右特約は一般に第三債務者の利益を考慮して付されるものであるところ、本件においては、前記認定のとおり、第三債務者である訴外会社は原告からの債権譲渡通知を受けた後に被告に対して有する反対債権によって相殺をすることにより自己の利益を確保した上で残代金のみを供託しているのであるから、もはや訴外会社の利益を考慮する必要はないし、しかも、被告については和議認可決定が確定し和議条件もほぼ履行が終了しているため、被告に対する他の債権者の利益も考慮する必要のない状況にある。

これらの状況に照らすと、少なくとも現時点においては、原告が右特約の存在について悪意又は重過失であったか否かにかかわらず、自ら右特約に反する行為をした原告が右特約違反の主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないというべきである(なお、被告は、その担当者である藤田部長は譲渡禁止特約の存在を知らなかったと主張するが、仮にそうであったとしても、そのことは、被告が債権譲渡が有効であると考えて譲渡をしたというにすぎず、客観的にみて自ら右特約に違反する行為をしたことに変わりはないから、現時点でそれに反する主張を許すことはやはり禁反言の法理に反するというほかなく、被告に右特約違反の主張を許す根拠にはなり得ない。)。

四  以上によると、原告の本訴請求は理由があるから認容し、被告の反訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤山雅行)

供託目録

一 申請年月日 平成一〇年一〇月六日

供託番号 平成一〇年度金第五三〇七五号

供託所 東京法務局

供託者 東急建設株式会社

被供託者 王子信用金庫又は株式会社田島順三製作所

供託金額 金一〇〇万六〇円

二 申請年月日 平成一一年二月九日

供託番号 平成一〇年度金第八八五九三号

供託所 東京法務局

供託者 東急建設株式会社

被供託者 王子信用金庫又は株式会社田島順三製作所

供託金額 金九三八万九〇〇〇円

三 申請年月日 平成一一年一〇月四日

供託番号 平成一一年度金第六三二八二号

供託所 東京法務局

供託者 東急建設株式会社

被供託者 王子信用金庫又は株式会社田島順三製作所

供託金額 金六五三二万一〇四〇円

四 申請年月日 平成一一年一〇月四日

供託番号 平成一一年度金第六三二八三号

供託所 東京法務局

供託者 東急建設株式会社

被供託者 王子信用金庫又は株式会社田島順三製作所

供託金額 金一〇〇万円

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